ノンカチュ


 カーテン越しに薄日が差し込み、可愛い寝顔を照らす。何の種類だろうか、小鳥の控えめな鳴き声も聞こえる。
 がばあっと布団から身を起こすカチューシャ。
 ベッド脇に置かれていた目覚まし時計を見る。
 とっくに起床予定の時間を過ぎていた。横ではノンナが、ぼけっとベッドに顔を埋めている。
「ノンナ! 寝坊したじゃない! どうして起こしてくれなかったの?」
「申し訳ありません」
 カチューシャの声に反応し、辛そうに顔を上げたノンナ。何処か熱っぽい印象を受ける。はっと“同志”の異変に気付くカチューシャ。
「顔色良くないじゃない! 大丈夫なの? 熱は?」
「まだ計ってないです」
 額に手をやる。かなりの熱、と言う事がわかる。ノンナはカチューシャの手を弱々しく取り、言った。
「多分、軽い風邪です。それよりカチューシャ、申し訳ありません。食事はご用意出来ませんでした。購買で何か買われて、早く授業に」
 ノンナの答えを遮って、カチューシャはベッドから飛び降りると、制服ではなく、身軽なジャージ姿に着替えた。
「そんな暇無いわ! これから貴女を看病しなきゃいけないんだから」
「行って下さい、カチューシャ。私は大丈夫……」
「ノンナが大丈夫じゃないから行かないわよ。前の試合の時は仕方なく行ったけど、今は試合も何も無いんだから」
 腕まくりして、やる気満々なカチューシャ。予想外の行動に珍しく狼狽えるノンナ。
「でも……」
「まずベッドに寝る。返事は?」
 きつく言われて、ノンナはのそのそとカチューシャのベッドに身を埋めた。彼女用にしつらえたベッドはノンナの体には小さい。けれどその小ささがぎゅっと彼女を包み込み、カチューシャの残り香がどこかほっとさせる感覚で、
「……はい」
 と、返事せざるを得なかった。
 一方のカチューシャは、部屋の隅にあるキッチンであれやこれやと格闘している。
「ええっと……。氷枕を作って……それでええっと、こう言う風邪ひいた時の定番ってお粥かしら。作り方は……」
「私が作りましょうか?」
 ベッドから顔を上げカチューシャに問い掛けるノンナ。
「本当? ……ってダメよ! 私が貴女を看病するんだから」
 ぐいぐいとベッドに戻される。
「でもいけませんカチューシャ。貴女に風邪がうつってしまったら」
 カチューシャに抗うノンナ。やはり大切なひとに、自分が原因で何かが有ったらと思うと気が引けて。
「その時は貴女が私を看病なさい。これは命令よ」
 あっさりと、事も無げに言い放つカチューシャ。そこに迷いは微塵もなかった。
「それでは本末転倒な気が」
「良いの。返事は?」
 カチューシャの厳しい言いつけ。だけどその言葉の裏には、心の底からノンナを大切に想っている事が透けて見えて、
「はい」
 と答えるしかなかった。
「……何で笑ってるのよ」
 同志の妙な笑顔を気にするカチューシャ。
「いえ。同志カチューシャ、貴女で良かったと思えて」
 突然の告白にも似たことばに、言われた本人は顔を真っ赤にして、
「と、とりあえず寝てなさい。このカチューシャ様が看病してあげるわ」
 と、腕組みして強がって見せた。

 翌日、仲良く寝込む事になった二人をクラーラが見舞う事になるのだが、二人は熱にうなされながらもどこか幸せそうで、クラーラはそんな二人を見、ノンナに言った。
「同志ノンナ。幸せですか?」
「突然どうしたのです、同志クラーラ」
「いえ、何でも有りません。……お二人共食欲は有りますか? каша(カーシャ)は食べられそうですか?」
「頼みます」
「了解」

end


ガールズ&パンツァー、ノンカチュの日常的な何か。
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