ほのまき


 眩しい陽射しが、彼女達を照らす。

 気怠い授業も終わり、既に日常となった校舎屋上でのレッスンの合間。
 レジャーシートの片隅に座る真姫。じんわりと滲む汗をタオルで拭う。
 そこへ何の前触れもなくぐわっと顔を近付けて話す穂乃果。
「ねえ真姫ちゃん、知ってた?」
「いきなり何よ」
 またこの人の話が始まった……そんな事を思ううちに、自然と指先が髪をくるくると巻いている。
「胸って、揉まれると大きくなるらしいよ」
 少々の苛立ちと、唐突すぎる話題についていけないややこしさが混じり、ついついきつい声色になる真姫。
「何で急にそんな事言い出す訳? それに、この前貴方揉まれっぱなしだったじゃない、希先輩に」
「……」
 じと目で遠くを見る穂乃果。真姫は彼女を逃がさず続けた。
「で、あの効果は? 大きくなったの?」
「あれは別腹……じゃなくて別の手なんです」
「なんで敬語。てか、やっぱり嘘だったんじゃない」
「違うの! 希先輩のは何か違うの! なんかこう、じわーっと、何かが吸い取られそうな感じがして」
「何それ怖い」
「だから真姫ちゃんも、希先輩に吸い取られてみると良いよ」
「なんでよ!? 私は、にこ先輩みたいになるのは嫌だからね」
「あ〜。にこ先輩は確かにね〜。この前も勉強出来ないとかでわしわしされてたし」
「されてた……って貴方もされてたんじゃないの? 凛と一緒に揉まれてたんじゃ」
「ギクっ! しかし、さすが真姫ちゃん、良く見ていらっしゃる」
「べ別に、上で悲鳴が聞こえたから、それだけ! 真面目にテスト勉強くらいすればいいのに」
「気分転換がしたかったのです!」
「……面倒な人」
 呆れ気味に、ミネラルウォーターを口にする真姫。穂乃果も自分の分を取って、ぐいっと飲み干すと、言葉を続けた。
「まあ、わしわしされて気分転換どころじゃなかったんだけどね」
「で、話ってそれだけ?」
「いや〜、だから最初の話に戻って。希先輩じゃなくて、私だったらどうかなと思って」
 穂乃果の照れと本気が混じった視線を胸に受け、ばっと両腕で隠す真姫。シャツは着ているのに、何か恥ずかしい。
「はあ? 貴方バカじゃないの?」
「嫌?」
「決まってるでしょ! 何でそんな事」
「真姫ちゃんの事、もっと知りたかったのにな」
「そう言うのじゃないのにしてよ!」
「他は良いんだ?」
「えうっ、そ、それもともかく……」
 穂乃果に詰め寄られる真姫。

 そんな会話を続ける二人。すぐ目の前に、緩いお下げの少女の影が立ちはだかっている事に、まだ気付かない。
 悲喜劇は数秒後に、始まる。

end


ほのまき。アニメ8〜9話位の感じで。
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