ツバほの2


 カラオケルームの一室。照明を落とし気味にした小部屋で、穂乃果とツバサは歌っていた。
 正確には、穂乃果がツバサから歌のレッスンを受けていた、と言う方が正しい。単純な歌唱力ではなく、ステージでのアピールのコツ、気を付けるべき点、その他にもグループとしてのステージ上でのパフォーマンス、立ち回りのアドバイスと経験など、A-RISEが培ってきた様々なテクニックと経験が、ツバサから伝授される。
「そう。そんな感じ。流石はμ’sね。元々素質は有るんだから大丈夫。私からはこれだけ伝えれば、後は貴方達が最高のパフォーマンスを披露するだけ」
 穂乃果の歌い方とパフォーマンスのレッスンを見終えると、ツバサは満足げに頷いた。
「ありがとうございます。ツバサさんからそう言って貰えると、自信付きます」
「でも過信は禁物よ? 本番ではどんなハプニングが起きるか分からないから」
「はい。気を付けます」
「でも、そのハプニングもまた、チャンスのひとつだと思って前向きにね。そこでうまく立ち回れば逆に注目されて、好感度も上がる」
「流石全国トップレベル。勉強になるな〜」
 穂乃果は忘れない様にと、ノートにメモを取る。後でメンバーに伝えて、練習に活かさなければ。
 けれど穂乃果はひとつだけ、腑に落ちない事があった。
「ツバサさん」
「どうしたの、高坂さん」
「何故、私達だけ、二人っきりなんですか? A-RISEの他の皆さんも、私達の他のメンバーも別室で……」
 三つの部屋を貸し切り、両端をμ’sとA-RISEが陣取り、中央の小部屋に、穂乃果とツバサが居る。リーダー同士、膝を突き合わせての打ち合わせと話し合い、と言う事で皆納得していた。両隣からは、それぞれの練習する歌声が微かに聞こえて来る。
「私達人数多いでしょ? 全員合わせると十二人にもなって、それだと練習にも集中できなくなるでしょう? ちょっとした雑談ならともかく」
「ええ、まあ……」
「だからこうして、伝えるべきは伝え合って、練習すべきは練習する。合理的だと思わない?」
「はあ」
「それに……」
 ツバサは身を乗り出した。穂乃果の肩に手を置く。真正面から見つめる。
「一度、こうしてみたかった」
「えっ?」
「前に会った時から、自分でもよく分からない気持ちが有って、その理由は何なのか、私の心を揺り動かすこの原因と理由は何なのか。高坂さん、その答えは、貴方」
「私に?」
「だから、ちょっと、いいかしら?」
 小悪魔の様に笑みを浮かべるツバサ。穂乃果の太腿の上に座り、そのまま、穂乃果の顎に指を伸ばす。すらりと伸びる白く美しい指先で穂乃果の頬を撫で、顎を持ち上げる。
 いきなりの事に、全く抗えない穂乃果。椅子に座ったまま、何も言えず、ツバサにされるがまま。
 伏し目がちのツバサの顔が、近付く。吐息が頬を掠める。ツバサが見せる、ある種の興奮といくばくかの罪悪感が混じった瞳はまた美しく潤いがあり、睫毛も張りがあって美しい。思わず息を止め、見とれてしまう穂乃果。

(動けない。ツバサさんを拒否出来ない。どうして……?)

(もう少し。もう少しで、なにかが分かる気がする……。)

 穂乃果とツバサの距離が更に縮まる。心の交錯が、お互いの瞳に映る。

「あの、ちょっと良いですか? ほの……」
 ノック無しに部屋に入って来た海未が、二人の姿を見て固まった。
「ほ、穂乃果ちゃん……」
 海未の横に居たことりも、絶句している。
 唇同士の接触まであと数ミリの所にあった顔をゆっくりと上げ、ツバサはいつもの笑顔を作った。声を掛ける。
「あら、二人共、ちょうど良いところに」
 海未は、何と言って良いか分からないうちに、羞恥心と嫉妬が混ざって顔を真っ赤にする。ことりは、どうしてこんな事をしていたのかと、不安そうな表情を作る。
 穂乃果は放心した表情のまま、ツバサを見ていた。
「あの……。うちの穂乃果が、何か?」
 やっとの思いで声を絞り出す海未。ツバサは悪びれもせず、首を傾げて言った。
「残念。もうちょっとだったんだけどな」

end


短めの、ツバほの。その2。アニメ2期終盤、ラブライブ本選直前位のタイミング。
back to index
inserted by FC2 system