夢対決

 それまで一緒に遊んでいたクリスが疲れたと言ったので、トゥルーデは窓際のソファに座らせ、優しくブランケットを掛けた。少し休むと良い、と言うとクリスは嬉しそうに頷き、そのままうとうとと、眠りに就いた。
 そこに現れたのは、軍靴の音も凛々しい、かのウルトラエースであった。
「やあ、久しぶりだねバルクホルン大尉」
「これはこれは、ルーデル大佐。どうしてここに?」
 軍服姿のルーデルは、まんざらでもない表情でクリスをちらっと見ると、さらりとトゥルーデに告げた。
「何、簡単な事。君の妹君を貰い受けに来た」
「は? 一体何の事だ?」
 いきなりの事に、冗談かと疑う。
「いやあ、突然で悪いのだがが、ヨメにしようと思ってね。私は本気だぞ」
「……階級が上のひとに言うのも何だが、正気か貴方は」
「正気も正気さ。私は幼女が大好きでね。……クリスティアーネ、うん、実に良い名だ。姉に似て可愛いじゃないか」
「そ、そうか? クリスは私の自慢の妹で……ってちょっと待った!」
「ん? 何か不満でも?」
「何故こんな小さな子をヨメに? その前に、姉である私が断じて許さん!」
「上官命令でもか」
「それとこれとは話が別だ!」
「ならエース同士で勝負だ。そうだな、何の数で賭けるか」
「待ってくれ。大佐は対地戦のエースだが、私はそうではないぞ」
「ふむ。私は、一応対空のエースでも有るのだが。37mm砲で空飛ぶネウロイを粉砕した事も有る」
「……それは存じているが、そう言う勝負ではないだろうに」
「じゃあ腕相撲?」
「私は、妹の為なら本気を出すぞ」
「固有魔法を使うのはズルだな」
「それ以前に何かがおかしいのだが」
「じゃあ勲章の数だな」
「だからそう言うのも無しで……」
「じゃあ何で賭けよう」
「そもそも私の妹を賭けの対象にするとは許し難い」
「これは済まなかった。私のヨメに」
「まだヨメじゃない!」
「まだ、と言う事は、そのうちには、と言う解釈で良いのかな?」
「良くない! てか、帰ってくれ! もう帰ってくれ!」


「……と言う夢を見たんだ」
 タオルで汗を拭い、コップに注がれた水を一気に飲み干すトゥルーデ。
 空になったコップに水を注ぐエーリカは、トゥルーデの話を聞き終わると、へえ、と興味なさそうに言った。
 もう一杯ぐいと水を飲むと、粗く息を付いた。そんな“お姉ちゃん”を見、エーリカはベッドの横に座った。
「あのルーデル大佐がねえ。幼女好きって所でそもそも……」
「ゆ、夢だから」
「トゥルーデは、ルーデル大佐をそういう風に見てたんだ」
「そんな訳有るか!?」
「だって夢って、人の思いを投影したりするって、聞いた事有るけど?」
「だからってあんな無茶苦茶な夢が有ってたまるか」
 はあ。と大きく溜め息を付いたトゥルーデは、ベッドにごろりと横になった。
「うなされてたから何事かと思って起こしたけど、……もしかして、起こさない方が良かった?」
 エーリカの呟きに、がばっと起きる。そしてエーリカの手を握る。
「そんな事は無い。あの夢が続いていたかと思うと……まさに悪夢だ」
「まったくトゥルーデってば。クリスの事になると目の色が変わると言うか」
「だって、それは……たった一人の妹だぞ?」
「じゃあ私は?」
「お前は……」
 言い淀むトゥルーデ。そんな彼女を見て、にやりと笑うエーリカ。
 トゥルーデは、言葉を選びながら、ぼそぼそと呟く。
「お前は、私の大切な相棒で……仲間で……そして」
「夫婦ですから。……だよね?」
 エーリカに言われ、顔を真っ赤にして、ぷいと横を向くトゥルーデ。
「全く仕方ないなあ。トゥルーデ、一緒に寝てあげよう」
「何故そうなる」
「またうなされそうになったら、私が助けてあげよう。にしし」
「変な起こし方するなよ?」
「大丈夫だって。おやすみトゥルーデ」
 もぞもぞとベッドに潜り込み、横になるエーリカ。要するに、トゥルーデと一緒のベッドで寝たいのは彼女の方かも知れなかった。
 やれやれ。
 トゥルーデはもう一回だけ溜め息をつくと、汗で額に貼り付いた髪の毛をくしゃっとかき上げ、毛布を掛けた。
 もぞっと横で動く、エーリカを肌で感じる。
 ……別の悪夢を見そう。
 でも、それはそれで、少しワクワクする自分に気付き……、もやもやした気分が抜けない。
(これは暫く眠れそうにないな)
 トゥルーデはそんな事を思いながら、毛布を深めに被るのだった。

end


ツイッター発の企画「一斉即興小説」。お題は「優しい寝物語」。期限は過ぎましたがひとつ思い付いたので延長戦。お馴染みのコンビで再度チャレンジしてみました。
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