week end

 それは、二人が珍しく非番となり、荒天で訓練も中止となったとある日の事。
「どうしたハルトマン」
 自室で自主トレを終え、シャワーを浴びてきたトゥルーデは、ミーティングルームのソファに寝転び、気怠そうにしているエーリカを見つけた。その様子が何とも気になり、声を掛けたのだ。
「あー。おかえりトゥルーデ」
 首から上だけくいっと上げて、トゥルーデの姿を確認する。そうして、またソファにずぶずぶと沈むエーリカ。
「なんだなんだ。訓練が無いからと言ってたるんでるぞ」
 つかつかと近寄り、腰に手を当てていつもの小言。
「トゥルーデも、たまには休まないと身体壊すよ?」
 顔だけ向けて反論するエーリカ。
「自己管理しているから問題無い。お前は休み過ぎなんだ。……それよりも、皆はどうした?」
 辺りを見回す。普段は他に何人か居る筈のミーティングルームが、珍しくエーリカ一人とは。
「さあ。サーにゃんとエイラは夜間哨戒明けで、お部屋でぐっすりお休み中」
「それは知っている」
 帰投途中に天候が悪化し、ぎりぎりのタイミングで無事戻って来れた事をつい数時間前に安堵したばかりだ。
「シャーリーとルッキーニはハンガーに居るんじゃない? さっきストライカーユニットがどうとか言ってた」
「ふむ。リベリアン達はこんな時もあそこで整備か」
 ミーティングルームから、ハンガーのある方向をちらっと見る。
「トゥルーデだってこんな天気悪いのに自主トレ〜」
「うるさい」
 エーリカの茶々をいつもの様に流すトゥルーデ。エーリカは構わず他の隊員の動向を伝える。
「ミヤフジとリーネは厨房で料理中」
「なるほど……あれ? 今日の食事当番、あいつらだったか?」
「昨日珍しい食材が届いたとかで、坂本少佐と一緒に何かしてるみたいだよ?」
「め、珍しい……? 扶桑の食品か? また何か嫌な予感がするんだが」
「確認してきたら? ミーナとペリーヌも見に行ったみたいだし。帰って来ないけど」
「皆、物好きだな」
 腕組みし首を傾げて、他の皆を想像するトゥルーデ。
 そんな彼女を見上げる格好で、エーリカは小箱に入ったお菓子を手に、呟いた。
「私はほら、こう言う時、待ってないと」
「待つって、何を」
「トゥルーデ。誰も居ないと寂しいっしょ?」
「そ、そんな訳、」
「素直じゃないんだから〜」
 エーリカは半身を起こすと、ソファをぽんぽんと叩いた。座れと言いたげなジェスチャーに、トゥルーデははあ、と溜め息を付いてどっかと腰を下ろした。ふかふかのソファが柔らかく身体を包む。
 するとエーリカは待ってましたとばかりにトゥルーデの身体に背中を預けた。
「おいおい、私は背もたれか」
「安心して背中を預けられる〜」
「それは戦場だけに……まあ、いいか」
 エーリカのふんわりした金髪が鼻先をくすぐり……微かに彼女の香りを感じ、小言が口から引っ込んで消えた。

 エーリカは、トゥルーデが大人しくなったのを確認すると、手にしていた小箱からお菓子を取り出した。
 極めて細く真っ直ぐに焼かれたプレッツェル、その大部分にチョコがコーティングされている。
「珍しい菓子だな」
 トゥルーデは見た事も無いそのお菓子をまじまじと見た。
「ふぅるーへー、ふぁい、ふぉっひー(トゥルーデー、はい○ッキー)」
 エーリカはそのプレッツェルの端をくわえたまま、トゥルーデに向かって話し掛けた。口にしたままなので言葉が妙に聞こえる。
「……? まだ箱にたくさんあるじゃないか」
 そっちをくれ、と手を伸ばすと、エーリカはくわえたプレッツェルの端をトゥルーデにぐいと近付け、言葉を続ける。
「ふぉっひひゃはひゃ、ふぁーへ(こっちじゃなきゃ、だーめ)」
 困惑するトゥルーデ。
「な、なんでお前が食べているのを私が片方から」
「ふぉっひゃ、ふぁへふぁよ?(折っちゃ、だめだよ?)」
「な、何だって?」
 仕方なくトゥルーデはエーリカのくわえたプレッツェルの端を口にする。

 ばきっ。

 そのまま普通に折り取ると、もぐもぐと食べるトゥルーデ。
「ほほう。チョコがコーティングされているのか。これもまた……」
 エーリカがトゥルーデの顎を押さえた。突然の事にぐえっ、と唸るトゥルーデを前に、ちょっと怒った感じで言う。
「もー。トゥルーデ、人の話聞いてない! 折っちゃだめなんだってばー」
「何でだ?」
「ちょっとした遊びだよ。今度は絶対に折っちゃダメだからね。折ったら今日口聞かない」
「え、エーリカ? な、何故そこまで?」
 突然の宣告に動揺を隠せない鈍感大尉。
「ほら、今度こそ行くよ?」
 エーリカは小箱からプレッツェルを出すと同じ様にくわえて、トゥルーデに食べる様迫る。
「な、何か恥ずかしい……」
「ふぃふぁふぁらー?(今更ー?)」
 トゥルーデは仕方ないとばかりに、観念してぽりぽりと、プレッツェルを食べ始めた。
 エーリカはくすっと笑うと、自分も少しずつ食べ進める。
「……」
「……」
 二人して、顔を合わせ……目線が一緒になって……そのまま食べ進めて……唇が触れた所で、真ん中から折れた。
 そのまま、唇を重ねる。エーリカは目を閉じ、トゥルーデの頭を抱き込む様に、逃がさず、彼女自身を味わう。
 最初じたばたしたトゥルーデも、ようやく「遊び」の理由を把握し……エーリカの肩をそっと抱き寄せた。

「ふぁー眠イ。なあサーニャ、『お腹減った』ッテ言ってもまだ食事の時間じゃないシ、……ってうえエ? 二人して何やってンダ!?」
 眠たいままふらふらするサーニャの手を引いてやってきたエイラが、ミーティングルームの片隅で熱く口吻を交わす(様にしか見えない)トゥルーデとエーリカをみつけ、仰天した。
 ぷはあ、と唇を離すエーリカ。そのままトゥルーデを抱き寄せたまま、エイラとサーニャに、お菓子の小箱を差し出した。
「お腹、空いてるんでしょ? 二人もやってみる?」
 にっ、と笑うエーリカを見て、エイラは何故か血の気が引いた。サーニャは何故か一歩踏み出しエーリカに近付く。更に焦るエイラ。
「やるって、何ヲ?」
「ちょっとした遊び」
「……やる」
「サーニャ!?」
 そんな、気怠い週末のミーティングルーム。

end


ポッキーの日に間に合わなかったけど、ポッキーゲームなエーゲル。
誠に勝手ながら、新和涼さんのイラストを元にタイムアタック的に書きました。
勝手にSSにしてしまってすみません。でも素敵なイラストなので(無許可で)書かざるを得なかった。反省しています。

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