栄養ヲ補給スル

「トゥルーデ、何やってるの?」
「見て分からないか? 筋トレだ」
 部屋の隅で黙々と身体を動かす相棒を、あくび混じりで眺めるエーリカ。そして答えを聞くなりうんざりした顔で言う。
「えー。トゥルーデ筋肉凄いし固有魔法あるじゃん。それ以上鍛えてどうするの」
「鍛えてないと鈍るんだ。常に戦闘に備えて準備しておく。その為には日頃からのトレーニングがだな……」
 ぐるるー、と音が微かに聞こえた。
「トゥルーデ、お腹鳴ったよね」
 言われた本人は顔を真っ赤にして弁明した。
「う、うるさい! 私だって人間だ、腹位鳴る時だって有る」
「お腹減ってるなら、ちゃんと『お腹空いた』って言おうよ」
「出来るか!? 皆に示しがつかん。それに私だけ特別扱いされる事は……」
「じゃあ私も一緒に特別扱いされるからさー。ちょっと食堂行こうよ」
「ハルトマン、お前またそうやってつまみ食いする気だな?」
「トゥルーデを思っての事だよ〜」

「と言う訳で、トゥルーデを連れて来ました。何か無い?」
 夕食の準備に取り掛かっていた割烹着姿の芳佳はエーリカからそう聞かれ、首を傾げた。厨房では芳佳と一緒にリーネもいそいそと作業をしていた。
「そうですね……。バルクホルンさん、何か食べたいものとかあります? 例えばお肉とかお野菜とか、塩辛いのとか甘いのとか」
「いやいや、夕食を準備中の宮藤に何かさせる訳には……」
「私、甘くて腹持ちするのがいい」
「ハルトマンお前、夕食前だと言うのに何を言い出すかと思えば」
 呆れるトゥルーデ。芳佳は頷いた。
「分かりました。すぐお作りします」
「さっすがミヤフジ。頼りになるなー」

 席で待っていてくださいと言われてぼんやりと十分も待つと、お椀と箸をふたつお盆に載せ、芳佳とリーネがやって来た。
「どうぞ。お汁粉です」
「冷めないうちにどうぞ」
 芳佳とリーネに勧められる。
「これは、扶桑の小豆……と、モチを加工したものか」
 料理の材料を見て分析するトゥルーデ。エーリカは既に箸を手にしている。
「扶桑料理ばっかりですみません。私、カールスラントの料理には疎くて」
 謙遜する芳佳を見て何だか申し訳無い気持ちになる堅物大尉。
「いや、わざわざ作ってくれただけでも有り難い」
「うわ、甘くて美味しい!」
「こら! 食べ過ぎだハルトマン!」

「いやーありがとねミヤフジ。晩ご飯期待してるから」
「はい。ではまた後で」
「済まなかったな。リーネもありがとう」
「いえいえ」
 軽く腹ごしらえした後、芳佳とリーネを残して厨房を後にするカールスラントのエース二人。廊下を歩きつつ、エーリカはにやけながらトゥルーデに言った。
「何だかんだでトゥルーデもしっかり食べてたじゃん。やっぱりお腹減ってたんでしょ」
「出されたものは食べないと、せっかく作ってくれた宮藤達に悪いだろう」
「そう言って。ミヤフジには何かと甘いんだからトゥルーデは」
「そ、そんな事は無いぞ」
「またまた。……妬けるよ」
 小声のエーリカ。トゥルーデは首を傾げた。
「ん? 何か言ったか」
 問い掛けに聞こえないフリをしたエーリカは部屋に戻ると、相棒の手を取り腕を絡めてベッドに向かう。
「トゥルーデ、食後に少し休もうよ」
「お前、休んでばかりだな」
「すぐ動くのは身体に悪いよ〜」
「だからってすぐ横になるのもどうかと思うが」
「いいじゃん。今日せっかくの非番なんだしさー」
「まったく……」
 呆れるトゥルーデを前に、エーリカはちょっと拗ねた顔をした。
「それはこっちのセリフだよ」
「何で」
「トゥルーデ、無理し過ぎ」
「そんな事は無い」
「自覚無い時点でダメだよ」
「だらけてばかりのハルトマンに言われてもな」
「休むのも大事だって、教わったもん」
「誰に? 先生からか?」
 先生、とは現在502で活躍中のロスマン曹長の事である。皆から親しみと敬意を込めて先生と呼ばれている。
「先生と伯爵」
 エーリカの答えに、トゥルーデは幻滅を覚えて額に手をやった。ちなみに伯爵、とは同じく502で活躍中のクルピンスキーの事である。
「先生はともかく……クルピンスキーはダメだ」
「何でよ? 同じJG52の仲じゃない」
「違うんだ……。そうじゃないんだ」
「ともかく、少し休もうよ。休まないと腕離さないよ」
「ああもう。分かったよ。分かったから」
「分かれば良いよ」
 エーリカは頷くと、トゥルーデを引っ張り込む様にして一緒にベッドに横になった。

「しかし、こうやってるうちに、時間は過ぎて行くものだな」
 ぼんやりとベッドの上で休む二人。トゥルーデは時計の針の進み具合を見て呟いた。
「当たり前じゃん。もうすぐ晩ご飯〜」
「私はもう少し未来の事を話したかったのだが」
「トゥルーデは先の事考え過ぎ。エイラみたいに先読み出来る訳じゃないのにさ」
「そう言うハルトマンはどうなんだ。近視眼的じゃないのか」
「私は、いつでもトゥルーデの事をみてるよ?」
 突然の真顔に、頬が紅くなるトゥルーデ。
「なっ!? 突然何を言い出すかと思えば」
 にしし、と笑ったエーリカはトゥルーデの瞼に手を当てた。
「さ、少し目を閉じて」
「寝るつもりだな」
「枕に頭を載せて」
「寝るつもりだな」
「毛布をふぁさー」
「寝る気満々じゃないか」
 結局一緒に寝る格好になってしまう。エーリカは悪びれもせずに言った。
「トゥルーデも一緒だし、共犯だよ」
「ぐっ」
「たまにはいいじゃん」
「たまに、ではない気がするんだが……」
「……」
 エーリカからの返事は無かった。すやすやと寝息を立てている。
「寝るの早いな、相変わらず」
 ベッドに頬杖をつきながら、相棒の顔を見るトゥルーデ。
 心地良さそうに眠る彼女のブロンドの髪が、枕の端でくしゃっとなっている。そっと触り、整える。
「全く。フラウ、お前には……」
 言い掛けて、自分もふわあとあくびが出てしまう。
「私まで怠けてしまうな」
 けれど、こんな日がたまには有っても……良いのだろうか? 自問する。だがきっと横で眠る相棒と同じく、皆が言うだろう。恐らく自分を良く知るミーナも。
「貴女は働き過ぎよ」
 と。
 だから今は自然な流れに身を任せ、大切なひとと同じ時間を共有するのも悪くない。そっと重ね合わせた手も温かく……そう、気分は悪くない。

 夕食ですよーと呼びに来た芳佳とリーネに起こされるまで、二人はそのまま体を休めた。

end


ストライクウィッチーズより、エーゲルSS。
ツイッターにてスレッド投稿したSSを加筆修正したもの。

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