諦めきれない

 サトゥルヌス祭で久々の再会を喜ぶニパとエイラ。昔話に花が咲き、今どうよ? みたいなノリで“炭酸水”を片手に話し込んでいた。ちなみに二人の飲み物はそれまで飲んでいたヴァルトルートから適当にかっぱらってきたものだ。そこに、ふらりとひとりサーシャが来た。
「楽しそうですね、ニパさん」
「えっ。そう見えますか」
「ええ。とっても」
「確かに久々だし……スオムスの飛行第24戦隊以来かなぁ」
 思い出そうと首を傾げるニパ。
「何だ何だ、私とばっか話してないで、ちゃんと502の皆と話さないとダメだろ?」
 二人の様子を見ていたエイラがニヤニヤしながら言う。
「その赤い服に帽子の姿で言われたくないね」
 口を尖らすニパ。
「ホラ、話して来いよ、私はサーニャと少しご馳走食べてくるからさ」
 エイラはニヤニヤしたまま、席を離れた。
 ぽつんと二人きりになるニパとサーシャ。サーシャはサーニャの元に行くエイラをちらっと見た後、ニパの顔を真正面に捉えた。
「エイラさんとは本当に仲が良いのですね」
「ええ。イッルとは戦友で、仲間でしたから……いや、今もそうだと嬉しいけど」
「一度でも一緒に戦って、一緒に食事をしたら戦友ではないでしょうか。『同じ釜の飯を食う仲』と言いますし」
「はあ」
「今も一緒に戦いたいと思っているの?」
 穏やかな話から唐突な問い掛けに驚くニパ。
「えっ? いや、今はワタシ、502所属だし……」
「それでも、エイラさんとは、一緒に居たいと思うの?」
 サーシャの問い詰める様な口調に、ニパは戸惑った。
「ワタシ502の隊員だし……それに何でサーシャさん、そんな言い方」
「聞いたのよ。昔の同僚と離れたのが影響して、気持ちが控えめになっていると」
「ええっ!? だ、誰から?」
 しまった、とばかりに口に手を当ててから、頭を振り答えるサーシャ。
「そ、それは内緒!」
 502結成時まもなくの頃、ラルとエディータとサーシャの三人で、502所属ウィッチの評価をした事があるのだが、そこでニパについてその様な話題が上がった……とはとてもではないが言えないサーシャ。
 否定的な事を言われて、ムカっとくるニパ。ぼんやりと頭に回るアルコールの勢いか、言い方が少々強めになる。
「ワ、ワタシはちゃんと502で頑張って来たし! サーシャさんに何でそこまで!」
 サーシャはわなわなと震えた。
「私だって、今まで頑張って来たのに……」
 サーシャは自分でも気付かないうちに目に涙を溜めていた。
「ええっ? サーシャさんどうしてそこで泣くの? ワタシ、何か酷い事言った?」
「もう、馬鹿!」
 そのまま離れようとするサーシャの手を、ニパは握って止めた。
「待ってサーシャさん」
「放して!」
「だって、ワタシの話全然聞いてくれないし……その、イッルと再会出来たのは嬉しいけど、でも、だからと言って、502の仲間を蔑ろにする事はしませんよ」
「……」
 ニパはポーチからハンカチを出すと、サーシャに渡した。ハンカチは少し温かかった。目尻を押さえる。
「それに、サーシャさん、その、戦闘隊長で頑張ってるから。ワタシにも気を遣ってくれるし、その、ええっと……」
 サーシャはニパを見た。少年の様な顔立ち、ほのかに酔いが回ったその頬に、人懐こい瞳、ボーイッシュな唇に……、吸い寄せられる様に視線が行くのに、自分でも気付いていない。
 ニパはサーシャが自分の顔を見ているのに気付く。間近で見られているので気恥ずかしい。
「さ、サーシャさん。もしかしてお酒飲んでたりします?」
「あんな量、オラーシャでは飲んだうちに入りません」
「やっぱり飲んでるじゃん!」
「ニパさんは、良いですよね……」
「どうしてそこで拗ねるの? 今日なんかおかしいですよサーシャさん」
 そこでニパは気付いた。物陰から、ニヤけ顔のエイラと、ヴァルトルートがこっちを見ている事に。
「何見てるんだよ!」
 顔を真っ赤にして怒るニパ。ハンドサインで「もっと押せ」と合図するエイラ。何故か親指を立てるヴァルトルート。
「見ていてはいけないのですか」
「いやいや、サーシャさんじゃなくて。イッルもクルピンスキーさんも酷い!」

「エイラ、何かあったの?」
 ちょっとした騒ぎに気付いたサーニャがエイラの元に来た。
「いや何でも。親友の背中を後押ししようとしてただけ」
「また悪ふざけ?」
「とんでもない」
「その通りだとも子猫ちゃん。そうだ、ちょうどいいとこに来たね。これから僕と一緒に……」
「お断りダ」
 横に居たヴァルトルートをひと睨みすると、エイラはサーニャの手を取り、食事の並ぶテーブルに向かう。
「やれやれ。諦めが悪いねえ、みんな」
 一人物陰に残されたヴァルトルートは、隠してあったシャンパンを一本手に取り、慣れた手つきでぽん、と開けた。ラッパ飲みしようとしたところで、聞き慣れた声が掛かる。
「こんな所で何をしている」
 ぬっと現れたのはラルであった。
「おわ、隊長?」
「こう言う時に単独行動は良くないな。エディータも待っている。それを持ってこっちに来い」
「は、はい……」
 見つかった、と言う顔をしながら、まあこういうのも悪くないか、とヴァルトルートはラルの背中を追うのであった。

end


ツイッターの診断メーカーのお題より即興的なSS。
ブレイブウィッチーズ7話より。
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